栃木の国保 Vol.70 2020.3/ SPRING

高齢社会とフレイル ④フレイルチェックによる気付きとフレイルハイリスク者への適正介入による、介護予防・介護政策の転換 東京大学高齢社会総合研究機構  神谷 哲朗・飯島 勝矢 ⒌ フレイルが重度化した段階 においての対応 「フレイル(虚弱)」は身体的問題のみ ならず、認知機能低下・うつ状態、独 居などの社会的問題も含む概念であり 徐々にこのフレイルという中間的な段階 が進行し、要支援要介護状態に陥る。 超高齢社会のフロントランナーのわが国 において、フレイル予防の意義を国民に 周知することが必要であり、高齢者の健 康・医療・介護に関わるすべて専門職 も含め、社会参加、食、運動によるフレ イルの一次予防並びに、フレイルが重度 化した段階においての対応の重要性を認 識する段階が近づいている。 2014年日本老年医学会は高齢者が 要介護状態になる前段階を「フレイル」 と名付け、食事や運動による一次予防・ 二次予防の重要性を呼びかける提言を公 表した。「フレイル」は要介護に陥るリ スクが高い状態であるが、適切な介入に よってその予防や自立への回復が可能な 状態であり、フレイル予防~フレイル対 策は超高齢社会わが国においてまちぐ るみで取り組むべき喫緊の課題である (第 章図4参照)。 この課題に対し、大規模高齢者コホー ト研究柏スタディ)を基盤としフレイ ル早期発見/予防を目的とした包括的プ ログラム「フレイルチェック(以下FC と記す)」を開発し、地域在住高齢者を 対象し、令和元年度末までに東京都を 始め全国 の市区町村でこのFC事業が 始まってきた(図1)。 このFCは養成された市民フレイルサ ポーター(地域元気シニア主体)が中心 となり、「栄養 / 口腔・運動・社会参加 の三位一体」を軸として、集いの場を気 づきの場にしていくものである。FC参 加者の %が「また参加したい」と回答 し、フレイルサポーターの %が「やり がいを感じる」と回答している活動 る。FCは、参加者が自らのフレイルの 状態に気づき、早期の状態おいてより よい生活改善を目指す「一次予防」の基 準であり、「栄養(食、口腔機能)」、「運 動」、「社会参加」というフレイル予防に 関する重要な要素を学び、三位一体型で 取り組むプログラムである。フレイルは 早期の状態(即ち、FCで赤シールの割 合が少ない段階)では、地域の様々な健 康づくりの資源を活用すること本人の 行動変容を促し、赤シールを1枚でも減 らして健康な状態に戻すことができる領 域である(図2)。 しかし、FCで赤シールの割合が増加 してきた段階(個人のフレイルが進行し てきた段階)は、日常生活の中で老い 衰えた状態としても認識がされはじめ、 徐々に不可逆的な虚弱状態に陥る危険性 が高くなり、介護認定が必要な領域に近 づいてきていることも事実である(図3)。 ⑴フレイルハイリスク者新規介護認定 リスク 全国で展開されているFC活動におい て、一定のエビデンスが出てきている。 図4は柏市で実施しているFC初回参加 者約1500名方を対象に、新規介護 認定及び死亡者との関係を示した結果で ある。フレイルチェックの合計赤シール 数が多い人ほど、要支援・要介護の新規 認定や亡くなるハザード率が高いことが 分かった。具体的には青シール数 枚 以上を低度リスク群と設定すると、青 シール数が ~ 枚の中度リスク群の方 は要支援・要介護認定・死亡に対する危 険度が1・5倍と高く、さらに青シール 数が 枚以下になる高度リスク群では要 支援・要介護・死亡率が急激に上昇し、 要支援・要介護認定・死亡に対する危険 度が3・4倍と高値になっていた。しか ― 第 4 回 特別寄稿 1 67 89 94 17 14 16 13 千葉県 柏市、市原市、茂原市 福井県 坂井市、あわら市、池田町、永平寺町、越前町、鯖江 市、美浜町、福井市、小浜市、勝山市、越前市、南越前町、若 狭町、敦賀市、大野市、高浜町、おおい町 秋田県 鹿角市 鳥取県 境港市 東京都 西東京市、杉並区、江戸川区、国立市、 豊島区、文京区、板橋区、東村山市 石川県 金沢市 岐阜県 輪之内町、安八町、神戸町 沖縄諸島 兵庫県 神戸市 尼崎市 静岡県 静岡市、沼津市 山梨県 笛吹市、北杜市 和歌山県 紀の川市、かつらぎ町 沖縄県 北中城村 令和元年年度末までにフレイルチェック事業を実施済、或 いは計画している市区町村(計67市区町村) 富山県 朝日町、南砺市 神奈川県 茅ヶ崎市、小田原市、厚木市、座間市、逗子市、藤 沢市、三浦市、湯河原町、平塚市、中井町、横須賀市、秦野市 徳島県 那賀町、三好市、藍住町 高知県 仁淀川町 令和元年8月現在 長野県 川上村、須坂市 福岡県 飯塚市、嘉麻市、上毛町 新潟県 新潟市 県主導 【図1】 栃木県国民健康保険団体連合会「栃木の国保」 14

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