栃木の国保 Vol.70 2020.7/ SUMMER

こくほ随想 ① 2 24 6 1 https://www.youtube. com/atch?v=hr6LDj3A4l4 執 筆 者 ⇒ 東京大学 未来ビジョン研究センター データヘルス研究ユニット 特任教授 古井祐司 記事提供 ⇒ 社会保険出版社 栃木県国民健康保険団体連合会「栃木の国保」 18 ■その日は突然にやってきた 私が所属する東京大学・未来ビジョ ン研究センターのデータヘルス研究ユ ニットには、“データサイエンティス ト”がいる。データサイエンティス トの世界的なコンペティションである 「 K a g g l e 」で世界第 位を獲得す るなどこ業界では知られた存在で、 時間研究に取り組む様子には誰もが一目 を置く。 そんな彼の行動が、ある日突然変わっ た。電車に乗らず、徒歩で通勤し始めた のだ。寝る間も惜しんで研究を進める彼 が、毎日1時間近い時間をウォーキング に費やすのは余程のことだ。理由を尋ね たところ、『だって先生、静岡県の人た ちのデータを見ていたら、ウォーキング したほうがいいことは明白ですよ』との 返答。なるほどと思ってよく見ると、彼 の顎のラインがシャープになっていた。 ■データは人を動かす 彼は、 2018 年度から静岡県と東 京大学が進めている「国保ヘルスアッ プ支援事業」のプロジェクトの一員だ。 静岡県の全市町の国民健康保険と介護 保険、そして後期高齢者医療制度の最 近 年分のビッグデータから、県民 の皆さんがどんな病気にかかっていて、 患者さんが毎月何人増えている状況な のかが地域ごとにわかってきた。特定 健診を受けた人のデータからは、毎日 ほとんど運動・活動をしていない人の 体重や血圧がどれほど上がっているか も見えてきた。また、健診を受ける頻 度が高いほど、健康状態が良く、医療 費が低いことも明らかになった。 このような分析結果を知ったことで、 彼は自らの行動も変えたわけだ。今後も ウォーキングを続け、毎年健診を受ける だろう。また、もしも特定保健指導の対 象になったとしても熱心に参加し、保健 師さんのアドバイスに耳傾る素地が できたはず。 ■データは組織をも動かす このように、レセプトや健診などの データを活用して科学的予防・健康 づくりを進め、同時に関係機関(自治 体や医療保険者、企業、学校、医療機 関など)が共同で活用できる新しい仕 組みを「データヘルス」という。その うち、保険者が実施主体となる事業計 画を「データヘルス計画」と呼び、全 国の国民健康保険や健康保険組合に よって進められている。(具体的な内 容は、私たちの研究ユニットで作成し たビデオ「第 章 データヘルス計画 導入の背景」 をご覧 ください) これまで、住民の健康増進を図ると いう共通の課題に対して一律の施策を 実施してきた市町村の取組。これによっ て、各種健康指標の向上や平均寿命の 延伸が図られたことは言うまでもない。 しかし、健康寿命の延伸に挑戦してい く時代には、多様な 課題に応じた 施策が必要になる。「データヘルス」で 地域の健康課題を可視化することで対 象が明確になり、次の一手が打ちやす くなる。 今年1月、静岡県及び市町の皆さんを 集めた「データヘルス計画」の研修会 で、前述の分析結果をフィードバックし た。健康寿命が全国トップクラスの静岡 県でも、地域によって高血圧や糖尿病 人の割合は異なり、医療費にも格差があ ることなどを伝えたところ、『なぜその ような地域格差があるのか? その背景 に何があるのか?』といった疑問が湧 き、各地域における健康課題の解決策の 検討が始まった。既に、翌年度の計画や 予算配分を、財政部署を巻き込んで見直 した自治体もある。今回の分析結果を見 て、『やっぱりそうかぁ』とこれまでの 保健活動で感じていたことがデータで示 され、自信をもって取組を進められると 語る保健師さんもいた。 データヘルスの先進県である静岡県の 取組が全国でも進み、市町村の健康施策 が前進するよう、私たちも支援してき たい。また、“データサイエンティスト” が変わったように、多くの皆さんの意識 と行動が「データヘルス」を通じて変わ るこを楽しみにしい。 “データサイエンティスト”の 通勤が電車から徒歩に変わった!

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